『防風通聖散』本当に痩せるのか?薬剤師がエビデンスで斬る!

防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)は、効能に『肥満症』の記載があるため、最近では、ドラックストアなどで、一般用医薬品・OTCで販売されて、消費者からは『痩せる薬』として認識されていますよね。

結論から言うと、『誰でも簡単に痩せられる』と言ったような都合のよい薬ではありません。

食事や運動量を見直すことが大前提です。

ただ、肥満患者において、2つのランダム化比較試験が報告されており、条件によっては、『ウエスト周囲径』を減少させたり、『体重』を減少させたりする報告があるので、どんな人に適しているのか?検証していきたいと思います。

 
くろ
まずは自分自身にあっているかどうか調べる必要があるな。
 
はく
本記事の下に、自分の肥満度を計算できるルーツがあるよ!

肥満度を測定しよう

自分が肥満であるかどうか確認してみましょう

基本的には、『肥満』である方を対象となる薬剤ですので、身長体重を入力し、BMIが25を超えていないか確認してみましょう。超えている場合は、黄色信号ですが、防風通聖散の効果を得られる可能性があります。


肥満と漢方薬

『肥満症』に効能・効果をもつ漢方薬は『大柴胡湯』、『防風通聖散』、『防已黄耆湯』

文章を切り取れば、すべての『肥満症』に効能効果があるんだと思ってしまいますが、「○○がある人に対して」など、特定の条件が設定されていることに気づくと思います。

そもそも、この条件に適していないと、その漢方薬自体が適していないと言えます。

処方効能・効果体力
大柴胡湯   体力が充実していて、脇腹からみぞおちにかけて苦しく、便秘傾向がある人に対する、『胃炎、常習性便秘、高血圧や肥満に伴う肩こり、頭痛、便秘、神経症、肥満症充実
防風通聖散    体力が充実していて、腹部に皮下脂肪は多く、便秘傾向がある人に対する、『高血圧症や肥満に伴う動悸、肩こり、のぼせ、便秘、蓄膿症(副鼻腔炎)、湿疹、皮膚炎、ふきでもの、肥満症充実
防已黄耆湯体力中等度以下で、疲れやすく、汗のかきやすい傾向がある人に対する、『肥満に伴う関節の腫れや痛み、むくみ、多汗症、肥満(筋肉のしまりのない、いわゆる水ぶとり)中等度以下    
防風通聖散は『虚弱な方』にはNG

防風通聖散は、瀉下作用つまり、下剤作用を含む大黄や芒硝が含有されています

大黄は、センノシドAを含み腸内細菌が分解されることで、レインアンスロンとなり、腸を刺激することで下剤効果をもたらしています。わかりやすく言うと『刺激性下剤』に分類される成分です。

芒硝は、硫酸ナトリウムとも言います。市販薬でいうと『酸化マグネシウム』など聞いたことはあるのでないでしょうか。それと似ています。これらは『塩類下剤』とも言われますが、腸内の浸透圧が上昇することで、腸管内に水をひっぱきて潤いを与え、便をやわらかくするようなイメージです。

漢方では、瀉下作用として『大黄』と『芒硝』は最強の組み合わせとして知られています。虚弱な方に強力な瀉下作用が向いていないのは、想像できるのではないしょうか。

体力中等度以下の水ぶとりタイプには、体重減少目的で防已黄耆湯を使用すればいいのでは?
ランダム化比較試験といって、科学的根拠のある試験が行わていないので、肥満に対して有効であるかどうかは明らかになっていません。

ちなみに、診療ガイドラインにおいても、これらの薬剤推奨の記載はありません。

薬を使用していくのであれば、科学的根拠に基づいて使用するべきです。

防風通聖散について明らかとなっている、科学的根拠のある試験が2つあるので紹介していきます。

防風通聖散

防風通聖散の代謝における作用機序

そのまえに、防風通聖散がどのように体の代謝に影響を及ぼすのか確認してみます。

漢方薬は、作用機序と一括で説明するのは難しいですが、以下のような報告があって、それが代謝に寄与していると考えられています。

防風通聖散は、肥満マウスに投与したところ、褐色脂肪組織の活性化が見られたとの報告があります。

参考文献:Int J Obes Relat Metab Discord,19:717-722,1995

また、メタボリックシンドロームに対する作用は、以下の配合生薬によってもたらされていると想定されています。

麻黄によるノルアドレナリン分泌促進作用
甘草・荊芥・連翹によるホスホジエステラーゼ阻害作用

麻黄により、ノルアドレナリン分泌促進作用が分泌され、褐色・脂肪細胞腫の受容体に結合し、cAMPを介した熱産生・代謝亢進に寄与しますが、甘草・荊芥・連翹によるホスホジエステラーゼ阻害作用により、その効果がより持続的にさようすると考えられています。

グレリン低下作用による、食欲低下作用の可能性

では、実際にどのくらい有効性があるかどうかを報告されているエビデンスを見ていきましょう。


臨床的なエビデンスとしては、以下の2つが報告されています。

文献① 防風通聖散は肥満女性のウエスト周囲径を減少させる

文献:Clin Exp Pharmacol Physiol,31:614-619.2004

研究デザイン二重盲検ランダム化比較試験
対象群耐糖能異常を有する肥満女性
介入防風通聖散エキス製剤群(41名)VSプラセボ群(40名)を24週間投与での比較
全ての被験者は1200kcalの低カロリー食+300kcalの運動両方を併用する
結果①防風通聖散エキス製剤群は『ウエスト周囲径』をプラセボ群に比較して有意に減少させた
②体重を減少については、両群で有意差はなかった

この試験では、以下の年齢、BMIの方が81人の日本人の女性が参加しています。

  • 年齢: 53.8±12.9歳
  • BMI:36.5±4.8
  • 便秘罹患率:94%

こう見ると、40歳前半~65歳までの肥満の日本女性が対象となっています。

また、便秘に罹患している患者が94%もいました。

日本肥満学会では、BMIを25以上で肥満(1度)となりますが、この試験で参加された群はBMI(35~40未満)の肥満(3度)に属します。なかなかの肥満です。

大体の目安で、身長150cmで体重80kg程度でしょうか。

そうした人たちが、1日の食事量を1200kcalに制限し、かつ、1日300kcalの運動制限をしています。

体重について

防風通聖散を併用することにより、どれだけ体重を減少をもたらすか、比較していきましょう。

0週間12週間24週間
防風通聖散群90.8kg84.9kg80.0kg
プラセボ群90.3kg85.7kg83.4kg
  • 1日の食事量を1200kcalに制限し、かつ、1日300kcalの運動制限を24週間を行うことで、約7kgは減少した。
  • 食事、運動両方に防風通聖散を併用し、24週間継続することで、プラセボ群より約3kg程度の減少傾向はあり

ただ、12週の時点では、防風通聖散群とプラセボ群は体重を減少に対して統計学的有意差はなく、24週継続することで体重を減少の傾向が見えてくるといった解釈でしょうか。

 
くろ
食事・運動療法のみでも、継続すれば効果がありそうだな。
 
はく
継続力ですね

BMIについて

0週間12週間24週間
防風通聖散群36.734.132.4
プラセボ群36.134.333.3

BMIでみると、それほど…という感じになりますね。       

ウエスト・ヒップ周囲径

実線の方が、防風通聖散併用群、点線の方がプラセボ群となります。

試験開始後、12週間以降に、ウエスト、ヒップ周囲系にて変化がありそうですね。

プラセボ群では、ウエスト、ヒップ周囲径の変化が停滞しているように見えます。

文献:Clin Exp Pharmacol Physiol,31:614-619.2004より一部改変

24週後で、防風通聖散群はウエストを-17.3cm,プラセボ群は、-9.3cm減少させたとの結果となりました。

文献では以下のような結果が示されています。

  • 防風通聖散群は、プラセボ群に対して、ウエスト、ヒップ周囲径を統計学的に優位に低下すること
  • ウエスト周囲径にてその減少が顕著であった。

以下の腹部における脂肪減少の推移を見ると『内臓脂肪』により、影響を与えていることが考えれますね。

平均内臓脂肪(c㎡)の推移については、以下の様になっています。

0週間24週間
防風通聖散群197.6104.4
プラセボ群177.2140.9

防風通聖散群は、24週間で、平均内臓脂肪52.6%まで低下させています。(プラセボ群は79.5%まで低下)

 
はく
内蔵脂肪の低下率は高そうですね!

平均皮下脂肪(c㎡)の推移については、以下の様になっています。

0週間24週間
防風通聖散群426.4304.0
プラセボ群422.3342.0

防風通聖散群は、24週間で、平均皮下脂肪71.2%まで低下させています。(プラセボ群は81.0%まで低下)

小括

日本人女性でBMI(35~40未満)で行われた試験で、防風通聖散エキス製剤群(41名)VSプラセボ群(40名)を24週間で比較している。(94%が便秘あり)
1日の食事量を1200kcalに制限し、かつ、1日300kcalの運動制限を24週間を行うことで、約7kgは減少している
12週の時点では、防風通聖散群とプラセボ群は体重を減少に対して統計学的有意差はなく、24週継続することで体重を減少の傾向が見えてくる
防風通聖散群は、プラセボ群に対して、ウエスト、ヒップ周囲径を統計学的に優位に低下する。特に、ウエストに対して有効。

以上より、『肥満』を対象としていて、運動・食事療法を6ヶ月継続すれば、7kg程度は体重を減らせる。

防風通聖散を併用する場合は、継続して内服しないと減少傾向が見られない。

皮下脂肪ではなく、内臓脂肪をより減少させる効果があると考えられる。


文献② 防風通聖散は肥満患者の体重を減少させる

参考文献:東方医学,28:37-59,2012

研究デザイン    二重盲検ランダム化比較試験
対象患者60±1歳の肥満患者
介入防風通聖散エキス製剤製剤(70名)VSプラセボ群(50名)で2ヶ月間投与
結果防風通聖散群では、0.8kgの体重減少に対して、プラセボ群では0.1kgしか体重減少を認めず、両群の変化には統計学的に有意差が認められた。

この試験での参加者は、BMI≧25以上の肥満の男女で構成されています。先程の試験と異なり、男性が参加していること、BMIの基準肥満(I度)が小さくなっていますね。

また、特別な食事制限はなく、試験期間中は、生活習慣の変化がないか、毎週確認していたとのことです。

また、防風通聖散群では7.5g/dayの防風通聖散を内服し、プラセボ群では、5%の防風通聖散を含有し、味や香り、色などが同等で識別が難しいプラセボ製剤を内服することになっています。

  • 防風通聖散群 体重:65.9±7.0kg プラセボ群は体重:66.7±6.0kg
  • 防風通聖散群 BMI:27.5±2.4 プラセボ群はBMI:27.1±2.0
  • また、1.5kgの体重減少のあった群(リスポンダー群)と0.1kg以上の体重増加のあった群(ノンリスポンダー群で要因を検討しています。

体重について

8週間の試験で、防風通聖散群では、0.8kgの体重減少を認め、プラセボ群では0.1kgの体重減少しか体重減少を認めず、統計学的に有意に、体重を減少させたと結論づけされている。

今回の試験では、前の試験と異なり、運動制限や食事制限がなく、試験期間も短いため、体重減少効果は0.8kgとの結果となっている。

0週4週8週
防風通聖散群65.9±7.0kg65.5±7.0kg65.2±7.1kg
プラセボ群66.7±6.0kg66.7±5.9kg66.6±5.9kg

BMIについて

体重減少効果が0.8kgとのことであり、BMIについては、ほぼ変化がないと言える。

0週4週8週
防風通聖散群27.5±2.427.3±2.427.2±2.4
プラセボ群27.1±2.027.6±2.027.6±2.0

効果がでやすい群

体重減少効果について、1.5kgの体重減少のあった群(リスポンダー群)は以下の特徴があったとされています。

  • 血圧≧140mmHg
  • 血清総蛋白濃度

総コレステロール減少効果のリスポンダー群は以下の特徴があったとされています。

  • 総コレステロール(TC)≧220mg/dL
  • 女性(コレステロールが高くない場合も含め)

インスリン抵抗性の糖尿病がある方

インスリン抵抗性の指標の一つである、HOMA-Rが1.8以上である場合に、体重の減少、体脂肪の減少の効果が有意に示されています。

  • HOMA-R≧1.8

小括

BMI≧25以上の肥満の男女で防風通聖散エキス製剤製剤(70名)VSプラセボ群(50名)で2ヶ月間投与
8週間の試験で、防風通聖散群では、0.8kgの体重減少を認め、プラセボ群では0.1kgの体重減少しか体重減少を認めず、統計学的に有意に体重減少を認めた
体重減少に関した、リスポンダー群の特徴として、高血圧(血圧≧140mmHg)や血清総蛋白濃度が高いことが明らかとなる
コレステロール減少に関した、リスポンダー群の特徴として、総コレステロール(TC)が220mg/dLや女性が要因として挙げられている

まとめ

防風通聖散はやせ薬ではない。安易な使用は、推奨できないが、以下のような方は使用してもよいと考えられました。

  • BMIが25以上を超える人
  • 高血圧の人(血圧≧140mmHg)
  • 血清総蛋白濃度
  • 総コレステロール(TC)≧220mg/dL
  • インスリン抵抗性の糖尿病の可能性がある人

ただし、麻黄が含有されていますので、高度な高血圧の方は、一過性のさらなる血圧上昇のリスクがあるため、使用の前には医療従事者にご相談いただくことが必須と思います。

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