脂肪乳剤(イントラリポス)について
脂肪乳剤であるイントラリポスは、経静脈栄養と共に臨床で多く、使用されています。
見た目が、まっしろな液体なので、配合変化や投与速度について、医師・看護師のみまさまから、問い合わせがある薬剤のひとつです。
よくあるお悩みポイントを備忘録として記録しておきます。
なぜ白いのか?
イントラリポスは、主成分は「精製大豆油」です。
文字通りとらえると、「大豆の油か~」と思いますが、医療用語にすると、「中性脂肪:トリグリセリド」です。
医療従事者であれば、検査値でみたことがあると思います。健康診断に引っかかる方も、油っぽい食事をしたときにあがる数値でもあります。
中性脂肪であるため、水には溶けにくい性質をもっていますので、水に溶かすために精製卵黄レシチンを添加することで、ふわふわと水中に浮かんでいるような状態になります。マヨネーズと同じ原理です。
ふわふわとしている脂肪に光が反射して白く見えています!
必須脂肪酸の欠乏症
皮膚症状
必須脂肪酸が不足すると、皮膚が魚鱗状になり、落屑が発生します。ぽろぽろと皮膚が剥がれるようであれば、脂肪の不足も一因となっている可能性はあります。
意識レベルの低下
視覚や認知機能の障害が報告されています。 経静脈栄養 を行っていて、意識レベルが低下してきている場合に、脂肪乳剤が投与されているか確認が必要です。
投与速度
・投与速度が早いと有害事象が発生する
臨床上、よく遭遇する問題の一つとして、投与速度が挙げられます。
脂肪乳剤は、投与速度を適切に設定しないと、有害事象(肝酵素上昇・脂質異常症等)が発生します!
適切な保険診療を行うためには、添付文書を参照しますが、イントラリポス20%製剤では、
「1日250mL(ダイズ油として20%液)を3時間以上かけて点滴静注する」と記載されています。
よくある製剤として、100mLのイントラリポス20%があります。
解釈を早とちりすると、1時間あたりの投与量は,以下の計算式で算出されます。
250mL÷3時間=83.3(mL/時間)
だいたい、80mL/hrより遅くいれればいいんだ~と思ったあなたは、すこし危険です。
結論から言うと、以下の速度を一般的には上限として考える必要あります。
投与速度は、0.1g/kg/時以下にする。
0.5g/kg/時の速度で30分間投与し、トリグリセリドを飽和させたのち(大体TG:500程度)、以下の投与速度で投与し、トリグリセリドの経時的な変化と、副作用について検討されている。
投与速度 0.3g/kg/時 VS 0.1g/kg/時
0.3g/kg/時群では、有意にトリグリセリドが上昇し、嘔気・血管痛・脂質異常症が発生した。
一方で、0.1g/kg/時ではトリグリセリドは上昇しなかったことが報告されている。
(↓参考文献)
Iriyama K, Tonouchi H, Azuma T, Suzuki H, Carpentier YA. Capacity of high-density lipoprotein for donating apolipoproteins to fat particles in hypertriglyceridemia induced by fat infusion. Nutrition. 1991 Sep-Oct;7(5):355-7. PMID: 1804473.
よく投与速度は、0.1g/kg/時です!っと伝えても、計算したくない、できないとの声も多いです。
一回は、自分で計算して、算出してみるべきですが、簡単に覚える方法があります。
これは便利なので覚えておきましょう!
- 使用する薬剤 イントラリポス 20% 100mL
- 体重:40kg
まずは、イントラリポス 20% 100mLにどのくらいの脂肪が入っているか、計算しましょう。
●%の定義は、100mLに●gの成分が入っていることを示しているので、使用するイントラリポスには、以下の脂肪(g)が含まれていることがわかります。
20g/100mL × 100mL =20g
0.1g/kg/時以下の投与速度(mL/hr)にしたいので、体重(kg)を掛け算して、1時間あたりに投与できる脂肪量(g)を算出します。
0.1g/kg/時 × 40kg =4g/時
計算すると、1時間あたり4gまで投与できることがわかりました。
20% 100mLに 合計20gの脂肪が入っていますので、4g/時で投与すると、
20g ÷ 4g/時 = 5時間 となりますね!
あとは、100mLを5時間で投与するには、1時間あたりの流速は、以下で算出できます。
100÷5 =20mL/時
つまり、この患者には、1時間あたり、20mL以下で投与すれば、副作用のリスクを回避できることがわかりました。
いちいち計算しなくても、体重の半分とおぼえておくと、40÷2で瞬時に、20mL/hrが導けます。
なので、通常の体重の方に、20%イントラリポスが、50mL/hrで投与されているような状況であったら、すこしムムムと思っていただければ思います!
注意点は、イントラリポスには、10%製剤と20%製剤があります。今回、紹介したのは20%製剤のため、十分ご注意ください。
また、上記の文献では、トリグリセリドを飽和させてからの検討ですので、投与してすぐに副作用が発生するわけではないですが、長期に脂肪製剤を投与している場合は、特に注意が必要ですね!
投与ルート
・TPNへの側管投与では、6時間までなら安定している報告あり
・TPNへの直接混合はNG
添付文書では、「本剤に他の薬剤を混合しないこと」との記載がある。
この記載に基づくと、イントラリポス単独のルートを確保するケースが多いと思います。
混合しないことの理由としては、脂肪が上手に小さく分散していたのに、他の液体と混合することで不安定になり、大きな粒子となり、肺塞栓症のリスクが上昇すると言われています。
投与方法を考えると、3パターンの投与方法が、挙げられます。
①イントラポリスの単独のルートから投与する
② 経静脈栄養 の側管から投与する
③ 経静脈栄養 に混合して投与する
以下の論文投稿がされており、実際に悩むことがある②、③の投与方法についての検討がされています。
脂肪乳剤を中心静脈栄養投与ラインに側管投与する方法の安全性-脂肪粒子径からの検討
経静脈栄養VoL29 No3 2014
左側が③の方法、右側が②の方法
経静脈栄養 に混合すると、脂肪粒子径が増大していることが示され、やはり、避けるべきことがわかります。
一方で、側管投与の場合は、6時間までの投与時間ですが、脂肪粒子径の増大は見られず、製剤としては安定していることがわかります。
一般的な投与時間の範囲内であれば、側管投与もひとつの投与方法であることがわかりました。
実際に添付文書においても、タンデム方式はNGとされていますので、直接混合するものは避けましょう。
側管から投与するようなピギーバック方式であれば、投与時間を確認し、検討するのも良いでしょう。
特殊な使用方法
局所麻酔中毒の解毒剤
基本的には、栄養として使用す場合は、投与速度、投与方法についてき注意が必要ですが、局所麻酔の中毒時には、例外となります。
投与する目的は、脂肪乳剤を投与することで、脂肪に局所麻酔剤を一時的に取り込ませ、血中の局所麻酔の濃度を低下させることを目的としているようです。
その結果、局所麻酔薬の中毒である心毒性など症状を軽減します。
したがって、ゆっくり脂肪製剤を入れていては、間に合わないケースがあります。その場合は以下の要領で投与する場合があります。
例:体重70kgの場合
1.5mL/kg×70kg =105mL
①20%イントラリポス100mLを静注する
0.25mL/kg/min×70kg×60min=1050mL/hr
②20%イントラリポス 1000mL/hrで持続投与する。圧倒的な速度ですね。
①を5分ごとに2回、合計3回繰り返し、その後は、②を継続するとされている。
通常、投与しない投与速度・投与量であるため、中毒時のみ方法であることを念頭においておきましょう。